2012年10月30日火曜日

【読書記録】日中経済の発展と課題




清水啓典(2011)『日中経済の発展と課題』東洋経済新報社

 本書は、一橋大学、みずほフィナンシャルグループ、中国企業連合会の共催により、2004年から2007年にかけて行われた「日中産業経済フォーラム」の要旨をまとめたものである。第1部では、「競争、革新、そして調和」と題された中で、4章に分かれて東アジア経済の現状が記されている。第2部では、「日中企業の国際競争力」と題され、中は9つの章から構成されている。ここでは、現在の中国経済について分析し、日本との関係を主に今後の展望を述べている。第3部では、「持続可能な発展と環境保護」と題し9章から構成され、経済発展と環境保護について述べられている。

 第1部では、「東アジア経済の現状と展望」についてタイムリーな話題を提供している。日本経済は、10年以上続いた長期停滞から脱出しつつある一方、中国経済が2003年来の経済過熱を克服してソフトランディングしようとしているだけでなく、韓国経済が回復をみせ、ASEAN諸国経済がアジア通貨危機の影響を完全に脱して高成長に復帰した。GDPの規模では、依然として日本が4.3兆ドルと圧倒的に大きく、中国は1.4兆ドル、韓国は0.6兆ドル、ASEAN諸国は0.7兆ドルに過ぎないが、中国は日本の3倍のスピード、韓国やASEAN諸国は日本の2倍のスピードで成長している。これらの国々の経済の回復や高成長の要因には、経済相互依存関係が深まっているといことが挙げられる。中国経済の発展に伴い、中国と東アジア間の協力関係も緊密になるなかで、東アジア経済の一体化の重要性は一段と高まっている。

 第2部では、「日中企業の国際競争力」ということで、主に日系企業の中国人管理職の登用についてと、金融について触れている。「中国は21世紀のリーダーとなりえるか」の中では、国際分業の役割について述べている。現在、中国を含むアジア地域は世界の成長センターといわれており、経済成長の要因には海外からの直接投資(FDI)の増加が挙げられている。海外の資本が中国の廉価な労働力コストや市場の将来性に魅了されて中国に進出してくる。それは資本だけでなく、先端技術、人的資本、様々なノウハウや市場等、先進諸国が長い時間をかけて試行錯誤して築き上げてきた成果の最も優れた部分だけを直接に享受するという「後発の利益」を得ていることについて肯定した上で、今後は知的財産権を確保することが、21世紀に中国が世界一の国なるうえで最も重要な課題だと指摘している。

 第3部では、中国で2006年に批准された第11次「5ヵ年経済計画」の経済成長モデルの転換を中心とした成長方針について触れている。ここでは、国内需要の拡大による経済成長の促進、産業構造の向上による経済成長の促進、資源節約と環境保護による経済成長の促進、中国独自の技術開発に基づく経済成長の促進、改革開放による経済成長の促進、そして人材の重要性を重視した経済成長の促進の6点が軸に据えられている。そして中国政府は、資源と環境に関する目標指数として、今後5年間でGDP原単位当たりのエネルギーを20%削減し、二酸化硫黄排出量と化学的酸素要求量を10%削減することを策定した。中国経済は現在高成長を遂げているが、まだ改善の余地があり、省エネ、環境保護、排出削減、循環経済などの分野に注力した成長モデルの転換が迫られている。

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